|
天下一大五郎 讲座
皆さんもすでに、王沢物産の社長が謎の文字を残して息絶えた例の事件について、ニュースや新聞の報道で知っているだろう。当然ながら、名探偵である僕の華麗な活躍も少なからず耳に入っていることと思うが、実は報道で伝えられているものは、そのごく一部に過ぎない。と言うのも、この事件における僕の活躍の全てを伝えようとすれば、新聞なら丸ごと一部、ニュース番組であれば二時間ぶち抜きの分量を要してしまうからだ。要するに、この事件における僕は、そんじょそこらの名探偵など及びもつかないほどの、尋常じゃない名探偵ぶりを発揮したということである。そこで今回は、皆さんの要望に応えるべく、報道では伝え切れなかった僕の華麗な活躍をお伝えしたいと思う。
そもそも、“ダイイングメッセージ”とは、「被害者が死ぬ間際に、第三者に犯人が誰かを伝えるために残したメッセージ」を指す。その歴史は古く、これまでに、コナン・ドイルやアガサ・クリスティといった名だたる作家がテーマに取り上げ、シャーロック・ホームズやエルキュール・ポアロといった希代の名探偵たちをも悩ませてきた。かく言う僕も、これまでに1500個ほどダイイングメッセージの謎を解き明かしてきたのだが、ひとつひとつ説明すると単行本1500冊以上になってしまうので、それらについてはまた別の機会に語ることにして、話を今回の事件に戻そう。
まず、最初に断っておかなければならないことがある。僕はテニスが上手い。いや、むしろ“上手い”という表現は的確ではないのかも知れない。僕のテニスの腕前を言葉で表すのであれば、“プロ同然”と言った方がしっくりくるだろう。何なら“フェデラーと同格”と言い換えてもらっても構わない。言うまでもないことだが、そんな僕が練習用マシンごときで空振りをきっすることなどありえない。もし、そのような姿を見かけたという者がいたら、それはたまたま「犬が退屈そうにしていたので遊んでやろうとした」という、僕のピースフルな優しさを垣間見ただけのこと。主人公の名探偵ともなると、事件を追うばかりでなく、周囲の動物たちにまで目を配ってやらなければならないのだ。
おっと、僕としたことが、論点が少々ずれてしまったようだ。本題に戻ろう。今回、被害者の王沢源一郎氏が残したダイイングメッセージは、これまで世に出回ってきた一般的なそれより、実に難解なものであったと言っていいだろう。まさか、ダイイングメッセージにあのような応用パターンがあり、よもや過去の偉人の格言まで関係していたとは…。名探偵の中の名探偵である僕でなければ、決して解けなかった謎であると断言してもいいだろう。ちなみに、報道では伝えられていないが、実は捜査を進める中、僕は被害者の妻・友美恵さんをストーカーから守るという活躍も見せていた。怪しげな封筒を手に屋敷に忍び込んできた男をいち早く察知し、狼藉をはたらく前に迅速かつ鮮やかに確保していたのだ。大きな事件を追いながら、そのような小さな事件まで即座に解決してしまう僕。もはや、“名探偵”という言葉だけでは、今の僕を正確に表現できていないのかも知れない。これからは、“世紀の名探偵”もしくは、“世界一の名探偵”と呼ばれる必要があるのではないだろうか。
そして今、改めて思う。僕が名探偵として存在するこの世界は、なんて幸せな世界なのだろう、と。だって、退屈なことが多いこの世の中でも、僕がいる限り刺激的な事件は起こり続けるし、例えその事件がどんなに謎に満ちたものでも、全て僕によってすっきりと解決されるのだから。こんな幸せな世界、ほかには絶対にない。皆さんも、僕と同じようにそう思っているのではないだろうか。 |
|